さよなら中平卓馬

 

 

ひとつの耳がなくなって

みんなの音になった

 

ひとつの手がなくなって

みんなの物になった

 

ひとつの目がなくなって

みんなの絵になった

 

ひとつの名前がなくなって

私は私になった

 

ふたつ目を

うしなう

 

もっと

 

簡単なやりかたで

うしなう

 

もっと

 

難しい意味で

 

 

さよなら絹猿のディスクール

 

さよならミミズの生活

 

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フリーデリケ・マリア・ベーアに恋をした

 

 

サテンの女たちに、トマトと黄金を浴びせかけたトレンドメーカーは、秘していく夜の光の中で涙を流したのだから、一刻も早く、ニュールックを産んだのがディオールなのかカーメル・スノーなのか、を、叫ばなければならないのだ、が、それが出来合いの選択でも明日それが違えども今きみが溺愛してるのならそれでいいさ、なんて、なんてね

 

(私?ダンサーよ)

(何の?モダンの一種よ、でももっとエキゾチックなの)

 

先日、フリーデリケ・マリア・ベーアに恋をした

もっとも今日はヴァバリアを着た女にぶちのめされる日だ、が、君にはアメリカの影が似合うよと言ってくれたネグリジェの女がフリーデリケ・マリア・ベーアを連れてくるらしいから、だからうれしいすごく、すごくむなしい

 

売りだされていた、あなたの古言が、ヴィンテージものになってた、だったけども、サマーセールでだいぶ安くなっていたから買おうかと思った時に、「2つ買えばお得ですよ!」、なんて言われたもんだから私、世間に呆れた、ね、わかるでしょ、私の気持ち、2つなんていらないの

 

偉大なる折衷主義者が、再起する歴史を喜んだ時に現れた貨幣は今、薄汚れた、もう一方の宇宙で再び再起するけれども、油断すると、今ここに現れる可能性もあるから、さらに言えば、歓喜されるか揶揄されるかわからないのだから、「\ここ」と「\もう一方」は非連続的につながっているのだ、が、フリーデリケ・マリア・ベーアに恋をした私にそんなことは関係ない

 

(わたし、夢なんか、一度もみたことがないの)

(恋、この恐ろしきものよ)

 

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八一三号室の逢瀬

 

 

言葉をコーディネートすることは(詩人と呼ぶべきかデザイナーとよぶべきか)二つの欲望の出発点を曖昧にする策略であって、調停が可能な限りで悲劇(的)なものが消滅するのであれば、この策略は悲劇すらも隅に追いやろうとする

能なしの仕事と言われ、堕落人の遊戯と言われ、性のマネキンと言われ、砂の上に築かれた世界で、圧倒的な表象の才能を暴露していた人(演者)を愛する人(観客)はもういなくなってしまったのだろうか?美が孤独で狂気と紙一重だと理解する人(狂人)はもういなくなってしまったのだろうか?

アリストテレスは二十八回の鼓動で心臓はすべての血液を大循環に駆り立てると言ったが、映画は一秒に二十四回の鼓動で物語を紡ぎだす故に残された四回が永遠に差異として我々にモードという夢(?)を見させるのだが、動かないダンス(写真)を、永遠に繰り返す(撮影)、忍耐力を言葉はもっているだろうか?

問題は今夜、私(レモンメレンゲパイを投げさせ合った)が着ていく服にある

一張羅(千一夜に着ていくためのダブル)に滲みを発見したのだ

悲劇についての神話的解釈と、哲学的解釈の偉大なる代弁者は、偉大なる滲み消し職人なのであって、私(レモンメレンゲパイを投げさせ合った)がまずしなければならないのは、セーラースタイルの横縞のシャツにジャージーの幅広パンツを着た人(マダム)が待つ八一三号室(映画的記憶)のドアーをノックすることである

つまりマダムは悲劇についての神話的解釈と哲学的解釈の偉大なる代弁者であり、偉大なる滲み消し職人なのである。

人生で一番長い動詞(生きる)と、人生で一番短い動詞(死ぬ)の出発点が曖昧になった時、恋人が持っていた二つの時間(与えられる時間と創りだす時間)が一つ(愛)になって複数化(同情)するのだからまず、貴方のするべきことはその滲みに名前をつけることですと言った人(マダム)(悲劇についての神話的解釈と哲学的解釈の偉大なる代弁者)(偉大なる滲み消し職人)は、暗い部屋(八一三号室)の中で私(レモンメレンゲパイを投げさせ合った)の愛に気づいたのだろうか?

 

 

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嬢の町

 

 

嬢が住む

ネオンの町

性。性。性。

踊り狂う化け物たち

犯罪の夜

レンブラント展

走る。走る。

バーの前

出てくる嬢とエセダンディズム

止まる僕

真っ赤なオープンカー

ジャガー。ジャガー。

赤いジャガー

赤豹

に乗る女豹

とエセダンディズム

抱き合い

接吻

模型の心

稲垣足穂のAO筒逆噴射

ダブルフェイスのカシミヤコート

生意気なのは誰?

コンサバ感?

流行

東京

モードな夜

接吻する人間達

自由と平等

それは白と黒

それは三島と太宰

枝雀と談志

取り残される僕

今一斉にネオンが消える瞬間を

待ち望むのは僕だけか?

 

 

嬢が住む

最上階の部屋

悲しみの町

捨てられた町

夜だけの町

の最上階

望まれた死

創られた生

混在する

ベッドの上

凌辱する

望まれる嬢

裸の

僕が

望む

嬢。嬢。嬢。

そうだ

愛がある

廃頽ではない

徳。徳。利益。

狂愚と夢想

チカチカの豆電球

滞納された光熱費

神秘的な濁光

アンドロギュノス的結合

ホワイトノイズの連結性

僕と

嬢様の

神秘的結合

民衆の勝利でなく

永遠の未勝利状態

上と下

イデオロギー

パラマウント判決

終焉

生を確約された

嬢が住む

いつかの町

観賞から始まる

男の欲望

接触から始まる

女の欲望

原体が混在する

ネオンの夜

待機する

電話で呼び出される

靴を履いた少女

永遠の愛人関係

白濁に染まる

私的な夜

表面という才能

無意味という才能

歳をとる

言葉の姿形

シワのある

永遠の美形

形態の官能

来るべき復活

終わらない前夜祭

新しく思い出される記憶

残酷な超越

浮きだした贋作の感情

さよなら。さよなら。さよなら。

ここは

嬢の住む町

夢の去った

賑やかな夜の町

 

 

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#淑女

 

 

その淑女は(回帰する)という名の現象と(リバイバル)という響きに含まれた民衆達の叫びの間には幾分かの違いがあることを知覚していたのに、だから、つまり、しなやかな肢体/死体に浮遊/富裕する花の香気を纏ったその淑女は伝統を重んじる余り見過ごされた現在形でも過去形でも未来形でもないその言葉に気づくことが出来なかった

 

異素材が共存出来る可能性があるならば、それは実際のドレスで起きる現象でないことなどその淑女はすでに知覚していたからこそ

 

 

  いくらそれが世界(仮)でも

 

  非連続的にしか

 

  繋がることがないのならば

 

  一緒じゃん?でしょ?

 

 

 

と、隣人に吹聴していたのかもしれない

 

 

#OTW

   上質なマテリアルを切りっぱなしにし

   たエフォートレスな憂鬱!

#OOTD

   柔らかな曲線が鮮烈な赤に与える官能

   美!

#BIN

   バックトゥネイチャーをフューチャリ

   スティックに!

#MCM

   歌舞伎でも宝塚でもない新たな波!

#PPD

   デジタルエレガンスの副作用!

#ROMO

   孤独だけが私を救う!

 

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ポーリーヌ女史

 

 

ポーリーヌ女史はノーカラーのツイードをまとっていました

多大なる謙虚さと一滴の冒険心に身を包みながら(本当に微々たるものだ!)言わせてもらえるならば、許してもらえるならば、そうならば、質素であるそのジャケットの全体にはビジューがふんだんにあしらわれていたわけで、カクテルドレスの胸元が時折ちらりとあらわになる、鳴る、成るので、あー、きれいだなー、なんてわたくしなんかでも思わせていただきました

 

チラリズムという腫瘍を取り除くことの不可能性と宇宙との関係、それはダーウィニズムではなくコープ的な転覆したテオネニー/ペトジェネシス(幼生生殖)がスタンリー・キューブリックへと繋がっていくことを堂々と宣言したコスモクローズ

生地は控えめな/意図的な色合いのミカドサテンでクチュールローズのプリントが柔らかにわたくしを毒殺していくのです

 

日曜の午後に芝生の上を歩くポーリーヌ女史を見つけ、優雅な時間が失敗を繰り返し続けている中でわたくしは「それ」が過去を演じ始めた時に始まったのだということを大胆にも考えてみたのですが、それは直列された関係がズラされること、揶揄する未来を肯定すること、さらに、言えば、君とは過去形で愛を語り現在形で結婚しようという意図へと繋がっていくのではないかとそこまで考えたところで贅沢の反対語は貧乏じゃなくて下品よと言ったポーリーヌ女史のお話を思い出しました

 

多数決で決まった今日の天気はポーリーヌ女史をたいそう喜ばせたことでしょう

ループやギャザーがふんだんにあしらわれたピンクのイブニングはライトに照り、雀の羽をのせたポーリーヌ女史のパフは世界を無視するのです

 

水曜の夜にポーリーヌ女史と会う約束を放棄したわたくしは物語が拉致されたのだと思い込みました

かつて「プラチナブランド発電所」と言われたそこは絶滅危惧種を大量生産することで生きながらえながら「まるで春のサラダみたいにフレッシュだわ」なんて、なんて、なんてことを優しく唱える君の好きな逢瀬場でした

結局の所わたくしは「贅沢することは外せないの。贅沢こそ何より重要だから」と謳ったポーリーヌ女史に安物の宝石と偽物のドレスを着せることなどできなかったのです

 

ポーリーヌ女史はノーカラーのツイードをまとっていました

日曜の午後に芝生の上を歩かなかったわたくしはポーリーヌ女史に逢うことなどない事実を反復し続けながらその物語を見つめ続けることしかできなかったのです

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#ワタシノアイジン

 

 

情報過多に起因する知覚限界の超越がある寡婦を生み出したとして、散乱した密着性をそれでも闇に居たいと願った寡婦の口元にこびりついた野生が産んだ新たな解剖学はソラリゼーションが暴いた宛先の無い痴呆の顔であった。

 

 

#ワタシノアイジン

 その愛くるしい身体で

 私の臀を叩いて欲しい

 雨が止むまで

 叩き続けて欲しい

 

 

欲望が常に快いものへの欲望であった時代に、子供の空想を執筆し子供の悪夢を録音するという仕事に着手し始めた寡婦はヘラクレイトス的救済の円環も欺瞞の闇へかかる梯子も一片の地獄編も「顔」が美しくなければ意味が無いと思っていた。

 

 

#ワタシノアイジン

 その愛くるしい身体で

 私の臀を叩いて欲しい

 雨が止むまで

 叩き続けて欲しい

 

 

偉大なる選者たちが必死に語り合うある物語への引力を寡婦は唯一無視することが可能であり、(屑め!人目をそばだてるな!)と叫ぶことでここに書かれた全てのことを無に返すことが可能である。

 

#ワタシノアイジン

 その愛くるしい身体で

 私の臀を叩いて欲しい

 雨が止むまで

 叩き続けて欲しい

 

一過的な被造物を愛するなと言ったパスカルに未来が下した判決を改めて起訴することに意味があるとしたら、それは寡婦を信じ愛する以外に方法はないのだ。

 

#ワタシノアイジン

 その愛くるしい身体で

 私の臀を叩いて欲しい

 雨が止むまで

 叩き続けて欲しい